柴田亜美作品
柴田亜美さんを知っているでしょうか? 、南国少年パプワ君、PAPUW、ジバク君など、ステ
キなギャグ漫画をかいている漫画家さんです。ここではカミヨミとあやかし天馬を取り上げてみ
ました。たくさんある漫画家のなかから、なぜ柴田亜美の作品研究なのか? それは私が好き
だから。(-v-)にま~
●カミヨミ
●菊理(ククリ)
主人公、天馬の許嫁である菊理。カミヨミとしての宿命と、愛する者のために命を落とした儚
くも強い彼女。その名前はおそらく、というか間違いなくククリヒメノカミ(菊理媛神)から来てい
るのでしょう。白山様、と言った方がわかる人が多いかも知れません。
何した神様?
千と千尋の項目で触れた、黄泉の国のお話。あれには続きがあります。イザナギが迎えに来
てくれたことを知ったイザナミは、「では、帰ってもいいか黄泉の国の神様に頼んでみるわね」と
黄泉の神がいる御殿の中に入って行きます。「ただし、待っている間、決して御殿の戸を開け
て私の姿を見ないでください」と言い置いて。
はい、もうお分かりですね。イザナギノミコト、お約束通りのぞいちゃいます。あまりにも長い
間待たされたので待ちかねて。そして彼が見たものは、体中にウジがわき、雷を体から発する
変わり果てた妻の姿。あまりの驚きと恐怖に、イザナギは逃げ出します。「よくも私にハジをか
かせましたね……」と追ってくるゾンビと化したイザナミ。ちょっとしたホラーです。ああ、ギリシ
ャ神話のオルフェウスとはえらい違い。
(オルフェウスは竪琴の名手。妻が毒蛇に噛まれて死に、冥界までむかえに行きます。その
歌声と竪琴で切々と妻を失った悲しみをハディスに訴え、『地上に出るまで後を行く妻を振り返
らない』という条件付きで妻を連れ帰る事を許されます。しかし、地上の明かりが見え、気がゆ
るんだのと我慢できなかったのとでオルフェウスはつい振り返ってしまいます。すると妻は『振り
向いてしまったのは、私を愛しく思うがゆえ。どうして貴方を憎めましょう』とにっこり微笑み、ま
た冥界に引きずりこまれてしまうのでした。
話を戻しましょう。古事記では、イザナギは何とか黄泉の国から脱出。千引岩(チビキノイワ:
千人でひっぱらないと動かない岩、の意味)で黄泉へ続く道、黄泉平坂(よもつひらさか)を閉ざ
し、イザナミに離婚を言い渡します。(帝月がヨミを行う時の祝詞『ヨモツヒラサカ通りませ、チビ
キの岩を開きませ』はここから来ています)
日本書紀では、この部分にククリヒメノカミが登場。ヨモツヒラサカで言い争う二人の間を黄泉
に続く道の番人、ヨモツミチヒト(黄泉道者)と共にとりなし、イザナギを無事地上に返した、とさ
れています。
ククリヒメノカミ、イタコの神
ククリヒメの別称は、白山比咩大神(しらやまひめのおおかみ)。石川県の白山をご神体とす
る山の神であり、山の神に仕える巫女の神格化でもあります。
本来、神や死者を憑依させ、その声を人間に伝えるのが巫女の役目でした。中世以後、男
性優位の考え方によって神主の補佐役になってしまいましたが、昔は神社や宮廷に属し、政
治を左右する託宣をしたこともあったそうです。まさしくカミヨミの世界。(その巫女が俗化した
のがイタコ)そう、ククリヒメは基を辿ればイタコの神様だったのです。
つまりは……
死者イザナミと、生者イザナギの間を取り持ち、巫女の神でもあるククリヒメ。死者の声を聞く
カミヨミの姫という設定に、菊理という名前以上にふさわしい物はないでしょう。ヨモツヒラサカ
通りませ、チビキの岩を開きませ……
つけたし
ククリヒメノカミは石川、岐阜、新潟を中心に全国の白山神社に祀られています。本拠地は石
川県白山比咩神社。神徳は五穀豊穣、安産、命名、入試合格など。コアなカミヨミファンは一
度お参りしてみては? てか、私も行きたい。
●瑠璃男の刀
泣きボクロがせくしーな瑠璃男君。彼は先祖代々受け継がれてきた日本刀を肌身離さず持ち
歩いています。三巻では、その刀に染み付いた義経の霊と自身の過去に縛られてしまいます
が…… ではこの刀、どのような経歴を経て彼の手に渡ったのでしょう? 名前は? 調べて
みました。
そもそも、刀って?
大河ドラマや映画で、鎧武者が刀を振り回すシーンが多いけど、あれ、あんまり正しくないよ
うです。実際、刀が主な武器になったのは幕末の頃。それまでの合戦では、矢を射掛けて大体
の敵を減らしてから薙刀や槍の白兵戦、という流れが主だったんだって。え、じゃあ刀って何に
使ったのか? 薙刀等が無くなった時のサブウエポンと…… 戦いが終ったあと、手柄の証拠
として討ち取った敵将の首を切断する時。ヒィィィ!
また、「今宵の虎鉄は血に飢えておるわ~」じゃないが、刀に名前が付けられるのは皆さんも
知っているでしょう。あれ、何となく一度つけたらず~と同じ名前、っていうイメージありませ
ん? 調べてみて分かったのですが、一振りの刀でも、持ち主が代わるにつれコロコロ名前も
変えるのが普通のようです。出世魚のように。瑠璃男の刀=義経の刀も何度も名を変えていま
す。
名刀誕生
この刀を作ったのは、源満仲。命じられた刀鍛治は、プレッシャーに負けたのか、なかなか
納得のいく物ができませんでした。そこで八幡様にお参りしてお告げをうけようやくつくり出した
のは二尺七寸(81センチ)の大太刀。試し切り(死罪にされた罪人の死体をズンバラリンする)
の結果、膝まで斬れたので『膝丸』と命名される。(ちなみに、同時に同じサイズの刀がもう一
振り作られていて、そっちの刀は髭切。満仲さん、あなたのネーミングセンスって……)
膝丸改め……そして意外なあの人も登場!
その後、この刀は源頼光に譲られます。この頼光、ある夏、奇妙な発作に襲われます。激し
い頭痛と高熱が急に始まり七転八倒。そんな発作が続くこと三十日。看病していた家来の四天
王、渡辺綱(わたなべのつな) 平貞道(たいらのさだみち)、平季武(たいらのすえたけ)、坂田
金時(さかたのきんとき)
(ん? 坂田金時? そう。主人公の名前が金さんだったらジャンプ回収騒ぎだ! でお馴染
みの銀魂。銀さんの本名は坂田銀時でしたね。モトネタはこの坂田金時です。銀さんは新撰組
なんかとドタバタしていますが、本家はもっと昔の人なんだよ~ ちなみに金時の幼名は金太
郎。そう、マサカリかついで熊にまたがりお馬の稽古した人です。銀さんだったら「ちょ、無理だ
から! これどう見ても馬じゃないから!」と大騒ぎしそうですが)
話がズレました。とにかく、四天王達が仮眠しに別室へ引き下がったあと……その事件は起
こりました。
灯った照明の影より、身長七尺(210センチメートル)の法師がぬっと現われ、手に持った縄
で頼光の首を絞めようと……
気づいた頼光は「この頼光を縄で縛ろうたぁ何者だ! 悪人め!」と枕元の膝丸を手に取り
一閃! 騒ぎに気づいた四天王が駆けつけたとき、曲者の姿は無く、部屋には血痕。一行が
点々と続く血を追って、着いた所は北野神社の塚。その塚を掘ってみると現われたのは四尺
(120センチ)のどでかい山蜘蛛! こいつが法師に化けて、頼光を呪い殺そうとしていたので
す。山グモは頼光に返り討ちにされ、あわれ川原にさらされるのでした。以来、膝丸は蜘蛛切
と呼ばれるように。うん、こっちのほうがかっこいい。
そして刀は頼光の甥、源頼義(よりよし)→頼義の息子源八幡太郎頼家(はちまんたろうよし
いえ)に譲られます。その後、頼家の子為義(ためよし)に譲られた時、吼丸(ほえまる)と改名
され、熊野権現に奉納されます。おお、なんかカミヨミというよりブリーチッぽいぞ? 「貪(むさ
ぼ)れ、吼丸!」みたいな。
ついに義経キター!
奉納された吼丸が再び世に出たのは、寿永三年(1184年)。兄の代わりに平家追討をするこ
とになった義経に、熊野の僧が勝利を願って届けてくれたのでした。京にいた義経は、遠く熊
野から来た贈り物の感激。「まだ緑が薄い春山から来たから…… 薄緑!」……雅ですね。人
となりが分かるネーミングっていうか。刀なのに、優雅。
つまりは……
瑠璃男の刀データ。長さは81センチ。名前は膝丸→蜘蛛切→吼丸→ときて現在薄緑。(義経
から瑠璃男までの持ち主が改名していなければ。そして瑠璃男が「帝月」とかに改名していな
ければw)
なお、刀の正確な長さが分かった以上、理論上絵から瑠璃男の身長が割り出せるはずなん
だが……誰か、チャレンジしてみる?
●あやかし天馬
終り方が唐突で、打ち切りの感じがひしひしとするこの作品ですが……一応調べてみました。
●鬼子母神符
3巻で天馬の降魔霊剣によって撃破された妖弧玉藻。上半身だけとなり漂いながら、命と引き
換えに自分を助けようとする部下達の思いに触れた彼は改心。今度は天馬が帝月からもらっ
た鬼子母神符で復活します。
鬼子母神については四巻のp177、2コマ目で飛天が言っている通りですが、ここではもう一
歩だけ踏み込んでみたいと思います。
子供の守り神、その素顔
鬼子母神は、人の子供をさらっては食べる鬼女でした。困り果てた人間は、お釈迦様に相談
します。「分かった。私がなんとかしよう」そうして、お釈迦様は鬼子母神の住む洞窟に忍び込
み、母親の帰りを待っている子供を一人、袖に隠して連れ出します。戻ってきた鬼子母神は、
半狂乱になっていなくなったわが子を探しまくります。そこにシレッとした顔で現われたのがお
釈迦様。「鬼子母神よ、何人もいる子供(鬼子母神の子供は百人とも千人とも)の中から、たっ
た一人いなくなっただけで、お前はそんなに悲しんでいる。ましてや、人間はほんの数人しか子
供を産まぬ。その子供を食い殺された親が、どれほど苦しいか考えて見るがいい」その言葉を
聞いた鬼子母神は改心。お釈迦様の弟子となり、子供の守護神となることを誓います。
符の模様
帝月が使う符は、ビワボクボクならビワ、シズルなら人魚のシルエットと分かりやすい文様が
描かれています。鬼子母神符は果物の絵でしたね。あれ、ザクロの実です。
改心した鬼子母神ですが、長年人間を食べてきたため、その味が忘れられず苦しみます。お
釈迦様に相談すると、「では、ザクロの実を食べるといい」とアドバイスされます。「あれは、血
肉と同じ味がするから」(そうなんだ?!たしかに鉄分は豊富らしいが、血の味?) というわけ
で、鬼子母神の像には片手にザクロを持っている物が多くあります。千と千尋の項で紹介し
た、ハディスにさらわれたペルセポネが初めて食べた冥界の食べ物もザクロでした。あの色や
あの粒々感が、どこか血や内蔵を連想させるのでしょうか?
鬼子母神の点々
四巻を読んでいて、あれ? っと思った人もいるんじゃないでしょうか。玉藻が復活する辺りで
使われている『鬼子母神』の言葉。『鬼』の字の第一画目の点がありません。
こんな感じ↓
これは何も誤植でも、印刷ミスでもありません。改心し、子供の守り神になった鬼子母神を昔
の鬼女と区別するため、鬼の角を表す第一画を書かないことがあるのです。改心したのに鬼
呼ばわりは酷い、ということなのでしょう。鬼女が人食いのサガを残したまま神となり、それに
敬意を払う。こういうところ、善悪がはっきりしているキリスト教と違い、東洋文化の懐の深さを
感じます。それにしても、結構特種な文字なので、作者はわざわざ指定してこの字を使ったに
違いありません。ステキなこだわりだと思いませんか?
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