翡翠色の瞳をした彼は、旅から帰ってくるなり紙に何かを書き始めた。
「今度はどんな言葉を拾ってきたの?」
辞事典地区の出身だからというわけではないだろうが、彼は様々な言葉の蒐集家だ。
「これ」
と見せられた紙には、異国の言葉が書かれていた。
「なんて書いてあるの?」
彼は読んでくれたが、発音が複雑でよく聞き取れなかった。
「『お祭り(フェスタ)が終わった後の通りを見たときの、寂しい虚無感』を表す言葉だって」
「またそんなマニアックな言葉を……」
「『階段で、あともう一段あると思い込んで踏み出したらもう床だったときのゾッと感覚』を表す言葉も教えてもらったよ」
「またそんな使い道の限られてる言葉を……」
「君は涙がきれいな結晶になるけど、『自分の流した涙が結晶になるのを見ている時の感情』を表す表現はないの?」
「ないよ! それに、たぶん、君が膝に落とした涙が乾いていくのを感じるときの感情と大して変わらないと思うよ」
了