えっへん、と得意気な少女の声だった。
「それでね、火事を見ている男の子の肩を叩いてね。振り向いた所にガーゴイルのお面を見せたのよ。お母さんのことや、ボーボー燃える火のショックで、そうとう弱ってたのね。もとから心臓も弱かったみたいだし。『ヒッヒッ』ってしゃっくりして、倒れちゃった! そのまま死んじゃったみたい!」
「じゃあ、お、お前がすべて……一体なぜ……」
思わず立ち上がった神父の太ももに、チクリと痛みが走った。
ポケットからハンカチを取り出す。開いて見ると、短い針がハンカチに刺さっていた。その先端は、茶色に染まっている。
視界が歪む。息が苦しい。
「私には、娘がいたのよ」
ふいに、少女の言葉から抑揚がなくなった。今まで明るいしゃべり方をしていただけに、その落差が不気味だった。
神父は倒れそうになった体を支えようと、震える腕を小窓に伸ばす。その勢いで短いカーテンが外れた。
透かし彫りの向こうに、中年の女性が座っていた。端に隠しきれないシワがある唇から、気味が悪いほど不似合な、幼く、あどけない声が流れ出る。
「でも、殺されちゃった……首をしめられて。小さい女の子を殺すのが好きな男の人がやったんだって、皆言ってた。旦那さん(おとうさん)はあなたが犯人だって。でも、証拠がないって。だから、私がカタキを取ることにしたの」
彼女の瞳に、目を見開き、口から泡をこぼす神父の姿が映っている。
「びっくりした? 私、自分の娘の声マネが得意だったの」
冷ややかな視線を神父にむける女性の声は、懺悔をしたときの物より二十も歳をとっていた。これが彼女の地声なのだろう。
「もちろん、こんな事お父さんには言えないわ。私だけの内緒よ」
そういうと、また彼女は声を幼いものに変えた。
「あなたも、あなたの家族も大嫌い。貴方たちが生きてるって思っただけでイライラしてたわ」
まさか、自分の罪がこんな形で裁かれるなんて。
神父の視界は真っ暗になり、ただ少女の声だけがにじんで聞こえていた。
「でも、私はちゃんと懺悔したし、あなたさえ死んだらもう同じ事はしないわ。神様は許してくれるわよね? だって、他でもないあなたがそう言ったんだもの」