ロレンスはしばらく物想いにふけっているようだった。その邪魔をしないように、ハディスは黙っていた。
月を隠していた雲が切れ、月光が差し込んでくる。立ち並ぶ十字架の影が伸び、ロレンスの体にかぶさった。それは、ハディスに檻を思わせた。
実体のない影の檻。ほんの数歩歩いただけで簡単に抜け出せるのに、肝心の囚人は自分が捕われている事にすら気付いていない。
「どうかしましたか?」
知らずにニヤニヤしていたのだろう、ロレンスが聞いてきた。
「いや、何でもない」
いちいち口にだして言うほど、おもしろい思いつきではない。
「そういえばレノムス君の墓参りにはいかないのか?」
代わりにそうからかえば、ロレンスは吐き捨てるように「ああ」と返事をした。
「死んだ者を悪く言うのは控えるべきですが、私はあの子が嫌いでしたから」
「……そこまでひどい奴とは思えなかったがな」
「あの子のことは、私の方が詳しく知っているはずですが」
今まで黙って毛づくろいしていたリンクスが、小さくくしゃみをした。
「冷えてきたな。帰るか」
その主人の言葉を聞いて座っていたリンクスが、ハディスの足元に歩み寄ってきた。
「お前はどうする?」
「私はまだ、ここにいますよ。まだ」
ロレンスはそう言って夜の空を見上げた。影の檻の中で。