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日々あったことを徒然なるままに
影の檻3 続くでどうぞ。ちみたんハディス登場。小さいときはあんなにかわいかったのに……

ブログの形式じゃ読みづらいよ&一回目見たいって人はこちらをどうぞ
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なんだかイライラしたから、というわけではないが、レノムスはその日の夜、弟に会いにいくことにした。
 家の礼拝所にある隠し通路。その奥に重々しい鉄の扉がある。扉の横の壁には、小さな石の板が埋め込まれていた。レノムスはそこに指先で短い文を書き込んだ。高位の者しか知らないはずの開錠用の合言葉を、レノムスはこっそりと調べ出していた。大人が思っているほど子供はバカでも無邪気でもないし、予想以上に周りの事をよく見ている。自分も子供だったはずなのに、大人はなぜそれを忘れてしまうのだろう?
 軋んだ音をたて、扉が開く。そのむこうは、ひどい状況だった。床にはちぎった本のページや文字の練習をした紙、服が散らかり、壁には顔料で描かれた落書きが踊っている。部屋の隅で丸まっていた黒い猫が、レノムスに気づいて眠たそうに顔を上げた。
 戸口に背を向け、机で何か落書きしていたハディスも、振り向いてぱっと顔を輝かせた。
 この少年がここに閉じ込められているのには、理由がある。琥珀色の髪と目を持つ彼は、魔族の――吸血鬼の――血を引いているのだという。
 魔族のことは、レノムスも伝説やおとぎ話で知っていた。遥か昔、この世を乗っ取ろうと異世界から現れた異形の生き物。なんでも血も涙もなく、人間の悲しみや絶望を見るのを好み、むごたらしく人を殺すのを楽しんだそうだ。
 魔族との混血自体は、珍しい物の無いわけではない。魔族との戦いの最中(さなか)、教会は混血児を探しだし一掃しようとした。だが取りこぼしがあったらしい。
 その証拠に、人間が魔族を異界に追い返して百数年経った今も、魔の血を引いている者がごくまれに現れる。異様に残虐な性格の者、人間としての理性を持たず、体に鉤爪や翼を持って生まれてくるもの。中には、本人ですら自分に魔族の血が混じっているのに気づいていない者もいるという。
 闇の血が薄い者は、大抵何事もなく人生を終える。だが極度の憎しみや怒り、あるいは強い魔力で魔族化する事がある。そしてその場にいた人間は、魔族との戦いがただの伝説ではない事を思い知るのだ。
 だが、どういうわけか吸血鬼と人間との間の子は例がなかった。同じ人の形をしていても、生物としてまったく別の生き物だからとされている。
 だから六年前、布教の旅から赤ん坊だったハディスを連れて帰って来た父は、すぐにハディスをこの檻に閉じこめた。ハディスが魔族の本性を表した時のため、あるいはハディスを害になるかも知れない太陽から守るために。果たして人に育てられた半吸血鬼が、人として生きられるのか、『実験』するために。
 しかし、レノムスにはいまいちピンと来なかった。どうみてもハディスは普通の子供にしか見えない。なんで大人達は怖がるのだろう?
 ずっと閉じ込められているのはかわいそうだ。そう思ったレノムスは、時々こっそりとハディスを檻から出し、外へ連れだしていた。もっとも、会いに行くだけならともかく、連れ出すとなると大人の目を盗むのは難しく、数か月に一度、夜の間の数時間だけだったが。
「ハディス、遊び行こ」
「うん! 行こ行こ!」
 ハディスがイスを飛び降りた勢いで、机の上に置かれた花瓶が床に落ちた。かけらと枯れた花、そしてわずかに残った水が飛び散った。
「あーあー、慌てるから」
 レノムスは床のかけらを拾いあげようとした。
「僕がやる!」
 ハディスがレノムスの手を払いのける。驚いて顔を上げると、ハディスはなぜか少し怒っているようだった。
「だってお前、この前ずっと怪我してたじゃないか」
 一瞬何の事を言っているのか分からなかった。そして、ようやく数か月前にペンの木軸を調節しようとして、ナイフで指を切った事を思い出した。
 傷は大したことなかった物の、カサブタになってもまだ痛かったので、しばらく布を巻いていた。それをハディスは「まだ治らないの?」ととても不思議がっていた。傷を見せてほしい、とまで言ってきた。
 実際に見たことはないが、ハディスには回復能力があるらしい。ちょっとした怪我なら一瞬で治ってしまうそうだ。
 ということは、ハディスにとってはそれが普通で、小さな切り傷が何日も治らないレノムスは、異常にもろく見えるのだろう。
 そんなレノムスがカケラで怪我をしないように、ハディスは自分が拾う、といってくれたのだ。
「ありがと、ハディス!」
 なんだか嬉しくなって、思わずハディスを抱きしめた。服を通して、ハディスのぬくみが伝わってくる。
 ひゃ~と悲鳴を上げながら、ハディスは身をよじって、レノムスの腕から抜け出そうとする。
「欠片のそばでジャレ合わない! 危ないですわよ!」
 今まで黙っていた黒猫が言った。拾われた時からハディスのそばにいるというこの猫によく似た妖精は、器用に両方の前足を使って花瓶のかけらを部屋の隅に片づけた。
「お二人とも、遊びにいくのでしょう? 速くしないと、夜が明けますわよ」
 は~い、と返事をして、二人はこっそりと外へ出て行った。
「レノムス様に言ってもしかたありませんけど、もう少しハディス様の待遇をよくしてほしいですわ」
 ぶつぶつと文句をいいながら、リンクスがその後をついていった。

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